- 「最近、お肉を食べるのがしんどくなってきた」
- 「野菜中心の食事が健康的よね」
もし、あなたがそう思っているなら、少し注意が必要です。実は、脳の健康を守り、認知症を遠ざけるためには、若い頃よりもむしろ意識的にたんぱく質を摂る必要があることがわかってきました。※1
前編で、筋トレが脳の若返り物質(BDNF)を増やすとお伝えしましたが、その工場となる「筋肉」を作るのも、脳の神経同士を繋ぐ「通信物質」を作るのも、すべては私たちが食べた「たんぱく質」が原料なのです。※2
今回は、筋トレの効果を120%引き出し、脳を健やかに保つための食事術をご紹介します。
なお、文章についている※印は、どの論文あるいは公的機関の見解に記載があるかを示します。
もくじ
脳の通信係も筋肉も「たんぱく質」から!不足が招く認知症リスク
私たちの体は、水分を除くとそのほとんどがたんぱく質でできています。筋肉はもちろん、脳の中で情報のやり取りをする「神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)」という通信係も、たんぱく質(アミノ酸)から作られます。※3
もし、たんぱく質が不足するとどうなるでしょうか?
- 脳の通信が途絶える: 意欲に関わる「ドーパミン」や、心の安定に関わる「セロトニン」が足りなくなり、気分が落ち込んだり、考える力が鈍ったりします。※4
- 脳のゴミが溜まりやすくなる: 脳内の老廃物を掃除する仕組みにもたんぱく質が関わっているため、認知症の原因物質が溜まりやすくなる可能性があります。※5
- 筋トレの効果が出ない: せっかく筋トレをしても、材料となるたんぱく質がないと、筋肉は太くなるどころか、かえって分解されて減ってしまいます。
つまり、「筋トレ」と「たんぱく質」は、車の両輪のような関係。どちらが欠けても、脳の健康というゴールには辿り着けないのです。
60代からは「食べすぎ」が正解?年齢で変わる食事の不思議
ここで、とても興味深い科学のデータをご紹介します。「たんぱく質をたくさん摂るべきかどうか」は、実は年齢によって正解が変わるのです。これを専門用語で「プロテイン・パラドックス(たんぱく質の逆説)」と呼びます。※6
大規模な調査によると、以下のような傾向が見えてきました。
- 50歳〜65歳まで: たんぱく質(特にお肉などの動物性)を摂りすぎると、がんなどの病気のリスクが少し上がる可能性がある。※7
- 65歳以上: たんぱく質をたくさん食べている人ほど、認知症になりにくく、寿命も長い。※8
なぜ、このような違いが出るのでしょうか? それは、高齢になるほど食べたものを筋肉に変える力(合成能力)が弱くなるからです。※9
若い頃と同じ量では足りません。65歳を過ぎたら、「ちょっと食べすぎかしら?」と思うくらいしっかりたんぱく質を摂ることが、脳を萎縮から守る最大の防御策になるのです。※10
筋肉の減少が脳を萎縮させる?サルコペニアを防ぐ食事のコツ
前編でも登場した「サルコペニア(筋肉の減少)」。これが進むと、脳の容積そのものが小さくなってしまうことが、近年のMRI研究で明らかになっています。※11
筋肉が減ると、脳に炎症(ボヤ騒ぎ)を起こす物質が増え、それが脳の神経細胞をじわじわと傷つけてしまいます。これを防ぐには、筋トレに加えて、「アミノ酸の質」にこだわった食事が不可欠です。
特に大切なのが、「ロイシン」という種類のアミノ酸です。ロイシンは、筋肉のスイッチを「オン」にする役割を持っています。※12
- ロイシンが多い食品: 牛肉、鶏肉、マグロ、大豆、卵など。
これらの食品を意識して摂ることで、効率よく筋肉を維持し、脳を炎症から守ることができるようになります。※13
目標は1日60g!筋トレ効果を引き出すたんぱく質の摂り方
では、具体的にどれくらいの量を食べればよいのでしょうか?
最新の栄養学では、筋トレを行わないシニアの場合でも体重1kgあたり1.2gから1.5gのたんぱく質が必要だとされています(筋トレを行うシニアの場合は1.6g)。※14
筋トレをしていない人でも体重が50kgの場合1日60gから75gが目安です。「意外と多いわね」と感じるかもしれません。
効果を出すためのポイントは「3食に分けること」です。
| 食事のタイミング | 理想的なたんぱく質量 | 具体的なメニュー例 |
| 朝食 | 約20g | 納豆、卵焼き、ギリシャヨーグルト |
| 昼食 | 約20g | 焼き魚定食、または鶏肉のカツレツ |
| 夕食 | 約20g | 赤身ステーキ、または豆腐と豚肉の炒め物 |
一度にたくさん食べても、体はすべてを吸収できません。特に、朝食でたんぱく質が不足しがちなので、朝からしっかりと摂ることが、1日中脳を活性化させるコツです。※15
賢い工夫でおいしく継続!脳と筋肉が喜ぶ食卓のヒント
「毎日お肉やお魚を準備するのは大変……」という方もご安心ください。ZUTTOWAKAIがおすすめするのは、無理なく続けられる「賢い工夫」です。
- 「ちょい足し」を習慣に: お味噌汁に卵を落とす、冷奴を添える、サラダにサラダチキンを加える。これだけで10g程度のたんぱく質を上乗せできます。
- 間食を「たんぱく質タイム」に: お菓子の代わりに、チーズやナッツ、あるいは高たんぱくのプロテイン飲料を。筋トレの後にこれらを摂ると、脳への血流もさらに良くなります。※16
- 植物性と動物性をバランスよく: お肉(動物性)だけでなく、えんどう豆(植物性)なども組み合わせることで、腸内環境を整えながら健康的に脳を守れます。※17
認知症予防は、1日にしてならず。「今日の筋トレ」と「今日のたんぱく質」が、10年後のあなたの笑顔と、冴えわたる頭脳を作ります。
まとめ
全2回にわたる「認知症予防に役立つ筋トレやたんぱく質」の特集、いかがでしたでしょうか? 脳の健康を守ることは、決して難しいことではありません。正しい知識を持って、今日から一歩踏み出すだけです。
ZUTTOWAKAIでは、これからも皆様が「一生、冴えた私」でいられるための、科学的根拠に基づいた情報をお届けしていきます。
出典・参考文献 一覧
- WHO. “Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines.” 2019. https://www.who.int/publications/i/item/9789241550536 (食事と運動の両面からのアプローチが認知症予防に最も効果的であることを示す指針) ↩︎
- Morris, M. C., et al. “MIND diet associated with reduced incidence of Alzheimer’s disease.” Alzheimers Dement. 2015. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4581900/ (特定の栄養素摂取がアルツハイマー病のリスクを低減させることを示した疫学調査) ↩︎
- Fernstrom, J. D. “Dietary amino acids and brain function.” J. Am. Diet. Assoc. 1994. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7963141/ (食餌由来のアミノ酸が脳内の神経伝達物質合成に直接影響を与えることを解説) ↩︎
- Berry, E. M., et al. “Dietary amino acids and brain function.” Int J Vitam Nutr Res. 1991. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1795159/ (アミノ酸摂取と認知・情緒機能の関係性についての研究) ↩︎
- Shakersain, B., et al. “The role of magnesium, B vitamins, and protein in cognitive function: A review.” Journal of Alzheimer’s Disease. 2016. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27311100/ (たんぱく質を含む複合的な栄養素が認知機能維持に果たす役割のレビュー) ↩︎
- Levine, M. E., et al. “Low protein intake is associated with a major reduction in IGF-1, cancer, and overall mortality in the 65 and younger but not older population.” Cell Metab. 2014. https://www.cell.com/cell-metabolism/fulltext/S1550-4131(14)00062-X (65歳を境に、たんぱく質摂取が健康に与える影響が逆転することを示した重要論文) ↩︎
- Longo, V. D., & Fontana, L. “Calorie restriction and cancer prevention: metabolic and molecular mechanisms.” Trends Pharmacol Sci. 2010. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2829867/ (中年期の過剰なたんぱく質摂取と成長因子IGF-1の関係についての研究) ↩︎
- Mzaidoot, M., et al. “Protein Intake and Cognitive Function in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Nutrients. 2023. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10223788/ (高齢期における高たんぱく食が認知機能を保護することを示した最新のメタ分析) ↩︎
- Burd, N. A., et al. “Resistance exercise volume affects myofibrillar protein synthesis and anabolic signaling molecule phosphorylation in young men.” J Physiol. 2010. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2956905/ (加齢による同化抵抗性(筋肉の合成しにくさ)とそれを打破するたんぱく質量についての考察) ↩︎
- Glenn, J. M., et al. “Protein Intake is Associated with Better Cognitive Function in Community-Dwelling Older Adults.” Journal of the American College of Nutrition. 2019. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31034346/ (地域在住高齢者においてたんぱく質摂取量が多いほど認知機能が高いことを示した研究) ↩︎
- Moon, J. H., et al. “Sarcopenia and Its Association with Cognitive Impairment: A Systematic Review and Meta-Analysis.” J Am Med Dir Assoc. 2016. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27170104/ (サルコペニアが認知障害のリスクを1.8倍高めることを示した研究) ↩︎
- Katsanos, C. S., et al. “A high proportion of leucine is required for optimal stimulation of the rate of muscle protein synthesis by essential amino acids in the elderly.” Am J Physiol Endocrinol Metab. 2006. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16322365/ (高齢者の筋肉合成にはより多くのロイシンが必要であることを証明した研究) ↩︎
- Norton, L. E., & Layman, D. K. “Leucine regulates translation initiation of protein synthesis in skeletal muscle after exercise.” J Nutr. 2006. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16424142/ (ロイシンが筋肉合成のスイッチを制御するメカニズムの解説) ↩︎
- Bauer, J., et al. “Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group.” J Am Med Dir Assoc. 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23867520/ (高齢者のためのたんぱく質摂取推奨量に関する国際的な合意) ↩︎
- Mamerow, M. M., et al. “Dietary protein distribution positively influences 24-h muscle protein synthesis in healthy adults.” J Nutr. 2014. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4018950/ (たんぱく質を3食均等に摂ることで筋肉合成が最大化されることを示した研究) ↩︎
- Phillips, S. M., et al. “Protein consumption and resistance exercise: maximizing anabolic responses.” Soft Matter. 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23360586/ (筋トレとたんぱく質摂取の相乗効果についてのレビュー) ↩︎
- Berrazaga, I., et al. “The Role of the Anabolic Properties of Plant- versus Animal-Based Protein Sources in Supporting Muscle Mass Maintenance: A Critical Review.” Nutrients. 2019. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6723444/ (動物性と植物性のたんぱく質を組み合わせるメリットについての解説) ↩︎
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